近年、日本の公的医療機関の経営状況が悪化し、赤字が深刻化しています。
本記事では、公的医療機関の赤字の実態と、その背景にある要因について詳しく解説します。
また、この問題に対する対策についても触れていきます。
公的医療機関の赤字問題は、日本の医療システム全体に大きな影響を与える可能性があります。
この記事を通じて、現状を理解し、今後の医療体制について考えるきっかけになれば幸いです。
公的医療機関の赤字状況

公的医療機関の赤字状況は、近年急速に悪化しています。具体的な数字を見てみましょう。
全国自治体病院協議会の2024年度決算調査によると、自治体病院の86%が経常赤字、95%が医業赤字という過去最悪の結果が示されました。
また、病院関係6団体が実施した「2024年度診療報酬改定後の病院経営状況」調査では、医業赤字病院が69%、経常赤字病院が61.2%にのぼっています。
さらに深刻なのは、2024年には医療機関の倒産が64件、休廃業・解散が722件に達し、過去最多を更新したという報告です。
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赤字拡大の主な要因

公的医療機関の赤字拡大には、複数の要因が絡み合っています。主な要因を以下に挙げます。
1. 人件費の高騰と人材不足
自治体病院の費用全体の約51%を人件費が占めており、2023年度から2024年度にかけて5.2%増加しています。医師の働き方改革による時間外労働の抑制や追加の人員配置も人件費増加につながっています。
2. 物価上昇・光熱費と材料費の高騰
2022年度には医薬品費が前年より5.7%増、水道光熱費は38.8%(電気47.6%・ガス47.9%)もの急騰が報告されています。材料費の購入量・購入額も前年より3.2%増加しています。
3. 診療報酬制度の硬直性
2024年度改定では収益が+1.9%増にとどまる一方、医業費用は+2.6%以上増え、赤字病院が急増しました。診療報酬は公定価格であり、コスト増を価格に転嫁できないため、インフレ下では大幅なプラス改定がなければ経営が維持できない状況です。
4. 人口動態と医療需要の変化
少子高齢化により、慢性期医療や在宅需要が増える一方、小児科や産科の需要が減少しています。旧来の急性期中心モデルでは収益確保が難しくなっています。
5. 受療行動の変化と病床利用率の低下
コロナ禍後に受診控えや入院期間短縮が進み、黒字病院の病床利用率が85.5%なのに対し赤字病院は77.5%と8ポイント低いことが収益差に直結しています。
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公的医療機関の赤字対策

この深刻な状況を改善するため、様々な対策が検討・実施されています。
1. 診療報酬の抜本的見直し
全国自治体病院協議会は、2026年度の診療報酬改定で入院基本料などの大幅引き上げを求めています。関係団体は「10%超の大幅プラス改定が必要」と訴えています。
2. 国の骨太方針と財源議論
2025年の経済財政運営の基本方針では、「コストカット型からの転換」を掲げ、賃金・物価高騰を踏まえた診療報酬引き上げ方針が盛り込まれました。ただし、財源確保が課題となっています。
3. 病院自身の取り組み
医療DXの導入による業務効率化、医薬品・材料の共同購入、省エネ・在庫管理によるコスト削減、多角経営の模索が進められています。
4. 地域医療連携推進法人制度の活用
地域の複数医療機関が患者紹介や共同購買、人材再配置を通じて効率化を図る仕組みの活用が進められています。
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まとめ
公的医療機関の赤字問題は、日本の医療システム全体に大きな影響を与える深刻な課題です。物価や人件費の高騰、診療報酬制度の硬直性、人口動態の変化など、複合的な要因が背景にあります。
持続可能な医療提供体制を守るためには、物価・賃金に見合った診療報酬の見直し、緊急財政支援、経営効率化、地域連携などを総合的に進める必要があります。
この問題の解決には、医療機関、行政、そして私たち国民一人一人の理解と協力が不可欠です。公的医療機関の経営改善と、質の高い医療サービスの維持の両立を目指し、今後の動向に注目していく必要があるでしょう。
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